スーパーのレジ前で「イヤ!」と泣き叫んで床に寝転がられた——そんな瞬間、頭が真っ白になった経験はないだろうか。
叱れば静かになるはずだ、と思う。ところが実際にやってみると、声を荒げるほど泣き声は大きくなり、なだめてもすかしても収まる気配がない。周りの視線を感じながら、家に帰ってからも「今日はうまく対応できなかった」と自分を責めてしまう。
結論から言うと、癇癪はしつけの失敗でも、子供のわがままでもない。感情を抑える脳の機能がまだ育ち切っていないことが土台にあり、その場の対応と日頃の関わり方の両方を知っておくことで、消耗の度合いは大きく変わる。
- 癇癪が起きる脳科学的な理由
- その場での対応(外出先を含む)
- 感情の言語化(感情ラベリング)の効果と声かけの具体例
- 日頃からできる感情コントロールの教え方
- 癇癪が落ち着いてくる時期の目安

なぜ癇癪が起きるのか:前頭前野の未発達という土台
感情の高ぶりを抑え、状況を判断する働きは脳の前頭前野が担っている。ところがこの部分は乳幼児期にはまだ発達の途中で、機能が本格的に育つのは主に小学生以降とされる。1〜4歳の子供は、悔しさや悲しさを感じても、それを抑える脳の仕組みがまだ十分に育っていない状態にある。
癇癪は「わがまま」ではなく「脳がまだ発達している途中のサイン」。この前提を持っておくだけで、その場の受け止め方が変わってくる。
自我が育ち、「自分でやりたい」「イヤなものはイヤ」という主張が強くなる1歳半〜3歳頃はいわゆるイヤイヤ期(第一次反抗期)にあたり、癇癪が最も起きやすい時期とも重なる。言葉や体は発達していても気持ちをうまく言葉にできず、思い通りに進まないもどかしさが癇癪という形で表に出る。ピークを越える時期は、思ったより早くやってくる。4歳を過ぎる頃から言葉でのコミュニケーション力が育ち、少しずつ落ち着いていくのが一般的な経過とされる。
その場での対応:効果があった対応・逆効果だった対応
しっぽ保育の現場でも、癇癪そのものを「今すぐ止めよう」とすると、かえって長引くことが多いんです。まずは安全を確保して、少し落ち着くのを待つ姿勢のほうがうまくいきます。
癇癪への対応で逆効果になりやすいのは、感情的に大きな声で叱る・無理やり抱き上げて連れて行く・「いい加減にしなさい」と行動だけを止めようとすることだ。子供からすると「自分の気持ちを分かってもらえなかった」という体験が積み重なり、癇癪の頻度や強さがかえって増すことがある。
一方で効果が出やすいのは、次のような対応だ。
- 危険がなければ、少し距離を取って見守る:泣き叫ぶ子供のそばで大人が慌てず落ち着いていると、それ自体が「安心の信号」になる
- 感情が落ち着いてから言葉をかける:ピーク時に言葉で説得しようとしても届きにくい。呼吸が落ち着いてきたタイミングで声をかける
- 選択肢を与える:「イヤ」の対象そのものを変えずに、「AとB、どっちにする?」のように主導権の一部を子供に渡す
外出先(スーパー・電車など)での対応





外だとどうしても周りの目が気になりますよね。でも一番大事なのは周囲の反応より子供の安全。無理にその場で完璧に収めようとしなくて大丈夫です。
人の目がある分、外出先での癇癪は家庭内よりもプレッシャーが大きい。意識したいのは次の3点だ。
- 周囲の視線より先に、通行の妨げにならない場所へ静かに移動する(叱る目的ではなく、安全と落ち着ける環境を優先する)
- その場で「言うことを聞かせよう」とせず、収まるまでの時間を見込んでおく
- 収まった後に「待っててくれてありがとう」のように、落ち着けたこと自体を認める
感情の言語化(感情ラベリング)が効く理由
「悲しかったね」「怒ってるんだね」と気持ちに言葉のラベルを付けるだけで、脳の状態が変わることが実験で確かめられている。
UCLAの心理学者マシュー・リーバーマン博士らの研究では、怖い顔・怒った顔を見せられた被験者に対し、その感情に合う言葉(「恐怖」「怒り」など)を選ばせると、感情の高ぶりに関わる扁桃体の活動が有意に低下し、代わって右腹外側前頭前野(RVLPFC)の活動が上がることが確認されている。感情を「名前のない衝動」のままにせず、言葉というラベルを与えること自体が、脳の状態を落ち着く方向へ動かすということだ。たった一言のラベルが、そこまでの差を生む。


子供に対する「悲しかったね」「怒ってるんだね」という声かけは、この感情ラベリングを大人がやってあげているに等しい。前頭前野がまだ育ち切っていない子供にとって、自分の感情に言葉のラベルを付けてもらう体験は、感情を扱う練習そのものになる。



保育士としても「気持ちを言葉にしてあげる」のは日常的に使う関わり方です。子供自身がまだ「これが悲しいという気持ちなんだ」と分かっていないことが多いので、大人が代わりに言葉にしてあげることに意味があります。
日頃からできる感情コントロールの教え方
その場でうまく対応できても、癇癪そのものが減るわけではない。減らしていくには、起きた瞬間だけでなく日頃の関わり方を変える必要がある。
- 気持ちに名前を付ける習慣をつける:癇癪の場面に限らず、嬉しい・楽しいといったポジティブな感情にも「楽しかったね」と言葉を添える。ネガティブな感情だけを扱う特別な対応にしない
- 選択肢を渡す場面を日常的に作る:着替え・食事など、癇癪が起きやすい生活場面であらかじめ「どっちがいい?」と選ばせる機会を増やしておく
- 絵本や遊びの中で感情を扱う:登場人物の気持ちを「今どんな気持ちだったかな」と話題にすることも、感情を言葉にする練習になる
- 親自身の感情も言葉にして見せる:「ママも今日は疲れてイライラしちゃった」のように、大人が自分の感情を言語化する姿を見せることも、子供のモデルになる
感情コントロールは一朝一夕には身につかない。「今日教えたから明日からできる」ものではなく、数ヶ月〜数年単位で少しずつ育っていくものと捉えておく。
癇癪が落ち着いてくる時期の目安
「いつまで続くのだろう」と思うほど出口が見えない時期もあるが、終わりは確実に来る。イヤイヤ期のピークは2〜3歳頃で、言葉やコミュニケーション能力が発達する3歳半〜4歳頃から落ち着き始めることが多い。前頭前野の発達自体は小学生以降も続くため、癇癪が完全になくなるわけではない。ただ、言葉で気持ちを説明できるようになるにつれて、癇癪という形で表出する頻度は着実に減っていく。
まとめ
スーパーのレジ前で泣き叫ばれても、それは合図であって失敗の証拠ではない。癇癪は、感情を抑える脳の仕組みがまだ育ち切っていないことの表れであり、しつけの失敗でも子供のわがままでもない。その場では安全を確保しつつ落ち着くのを待ち、感情が収まってから「悲しかったね」と気持ちを言葉にする。この感情ラベリングの積み重ねが、日頃からの感情コントロールの土台になっていく。



癇癪への対応に「これで完璧」という正解はありません。少しずつ、子供のペースに合わせて付き合っていく気持ちで大丈夫です。
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