GPT系・Claude系・Gemini系・OSS系はどう違う?エンジニア向けLLMモデル選定ガイド
「ChatGPTが便利」で終わらせず、APIで自社サービスに組み込むとなると話は変わる。どのモデル系統を選ぶかは、コスト・レイテンシ・コンテキスト長・ライセンスという実務的な制約に直結するからだ。このガイドでは、2026年7月時点のGPT系・Claude系・Gemini系・OSS系(オープンウェイト系)を、エンジニアが実際に意思決定するときの軸で整理する。
まず押さえておきたい前提:アーキテクチャの詳細はほぼ非公開
GPT系・Claude系・Gemini系はいずれも、稠密(dense)かMoE(Mixture of Experts)かといったアーキテクチャの詳細や、正確なパラメータ数を公式には公表していない。ネット上には「Claudeの最上位モデルは10兆パラメータ級」のような具体的な数字を挙げる記事が多数あるが、これらのほとんどは非公式な推測であり、Anthropic自身が数字を認めているわけではない。モデル選定にアーキテクチャの噂話を持ち込まない——これが最初の心構えだ。実務で比較すべきは、公式に開示されている「価格」「コンテキスト長」「ベンチマーク」「ライセンス」の4点になる。
クローズドモデル3系統の現在地(2026年7月時点)
GPT系(OpenAI)
現行はGPT-5.6系(Sol/Terra/Luna の3ティア)とGPT-5.4系(無印/mini/nano/pro)が併存している。
| モデル | コンテキスト | Input | Output |
|---|---|---|---|
| GPT-5.6 Sol(最上位) | 1M | $5.00/1M | $30.00/1M |
| GPT-5.6 Terra(中位) | 1M | $2.50/1M | $15.00/1M |
| GPT-5.6 Luna(軽量) | 1M | $1.00/1M | $6.00/1M |
| GPT-5.4-nano(最軽量) | — | $0.20/1M | $1.25/1M |
3ティア構成(Sol/Terra/Luna)になっている点がポイントで、「とりあえず最上位」ではなくタスクの重さに応じてティアを切り替える設計を前提にしている。データレジデンシー対応(US限定処理)を選ぶと、2026年3月5日以降のモデルで10%の追加料金が発生する点も見落としやすい。
Claude系(Anthropic)
現行はOpus 4.8(上位)・Sonnet 5(標準)・Haiku 4.5(軽量)の3段構成に加え、Fable 5・Mythos 5(限定提供)という上位帯が存在する。
| モデル | コンテキスト | Input | Output |
|---|---|---|---|
| Fable 5 / Mythos 5(上位帯・限定) | 1M | $10/1M | $50/1M |
| Opus 4.8 | 1M | $5/1M | $25/1M |
| Sonnet 5(〜2026年8月末:導入価格) | 1M | $2/1M | $10/1M |
| Haiku 4.5 | — | $1/1M | $5/1M |
注意:Sonnet 5は2026年9月から導入価格が終了し、Input $2→$3/1M、Output $10→$15/1Mに値上げされる。API利用コストを試算する際は、この時限価格を織り込んでおきたい。また、Opus 4.7以降・Fable 5・Mythos 5・Sonnet 5は新しいトークナイザーを採用しており、同じ文章でも旧世代より約30%多くトークンを消費する。価格だけで旧世代と比較すると誤差が出るため、実測でのコスト試算を推奨する。
Gemini系(Google)
現行はGemini 3.6 Flash / 3.5 Flash / 3.5 Flash-Lite の3ティア構成。
| モデル | Input | Output |
|---|---|---|
| Gemini 3.6 Flash | $1.50/1M | $7.50/1M |
| Gemini 3.5 Flash | $1.50/1M | $9.00/1M |
| Gemini 3.5 Flash-Lite | $0.30/1M | $2.50/1M |
最大の技術的な強みはマルチモーダル理解(画像・音声・動画)と最大200万トークン級のコンテキストウィンドウで、大量の資料や動画を横断的に読ませるタスクで他系統より優位という評価が多い。
OSS・オープンウェイト系:ライセンスは系統ごとに全く違う
自前でホスティングできる「オープンウェイト系」は、クローズド3系統とは別軸の選択肢になる。ただし「オープンソース」という言葉でひとくくりにするのは危険で、系統ごとにライセンスの自由度が大きく異なる。
| 系統 | ライセンス | 商用利用 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| Llama 4(Meta) | 独自の「Llama 4 Community License」 | 条件付き | MAU 7億人超の製品は別途Metaへのライセンス申請が必須。”Built with Llama”表記義務。EU域内はマルチモーダル機能の権利が付与されない |
| Mistral Large 3 / Small 4 | Apache 2.0 | 完全に自由 | 旧世代の制限的ライセンスから転換。フロンティア級MoEモデルの中で最も寛容 |
| DeepSeek V3.2系 | MIT | 完全に自由 | 蒸留(distillation)も含め制限なく商用利用可能 |
| Qwen 3/3.5(Alibaba) | Apache 2.0 | 完全に自由 | — |
特に注意したいのがLlama系だ。「オープンソース」という触れ込みで語られることが多いが、実際には大規模展開時に制約が発生するカスタムライセンスであり、真にオープンなライセンス(Apache 2.0やMIT)とは性質が異なる。自社サービスへの組み込みを検討する場合は、系統ごとにライセンス文書を必ず確認したい。
コスト構造もクローズドモデルとは異なる。モデル自体のライセンス費用はかからず、自前でGPUを用意するか、マネージドプロバイダ経由で従量課金(目安$0.20〜$3/1Mトークン)を選ぶことになる。クローズドモデルの5〜10分の1程度のコストで運用できるケースが多いとされる一方、自前ホスティングは運用の手間とインフラコストが別途発生する点は見落としがちだ。
選定の実務指針
1. コストとレイテンシで機種を絞ってから性能を見る
同じ系統内でも上位(Opus/GPT-5.6 Sol/Gemini Flash上位)と下位(Haiku/GPT-5.4-nano/Flash-Lite)でコストは10倍以上変わる。まず「このタスクにその価格差を払う価値があるか」を先に判断し、性能比較はその後にする方が、無駄なコスト超過を避けられる。
2. モデルルーティングを前提に設計する
1つのモデルに全タスクを任せるのではなく、複雑な推論はハイエンドモデル、定型的な処理は軽量モデルに振り分ける「モデルルーティング」が2026年の実務的なベストプラクティスとして定着しつつある。API経由でサービスを組み立てるなら、最初から複数モデルの併用を前提に設計しておきたい。
3. 長文コンテキストが要件ならGemini系かClaude系を軸に
大容量のコンテキストウィンドウ(1M〜200万トークン級)が必要なユースケース(大量資料の横断分析、長時間の会話履歴保持など)では、Gemini系かClaude系が候補になりやすい。GPT系も1Mトークン級に達しているモデルがあるため、要件が固まった段階で実測ベンチマークを取ることをすすめる。
4. 自社データを外に出せない、あるいはトークン単価を抑えたいならOSS系
規制業界やセキュリティ要件が厳しい環境では、自前ホスティングできるオープンウェイト系が選択肢に入る。ライセンスの自由度で選ぶなら、Llama系より Mistral・DeepSeek・Qwen系の方が制約が少ない。
5. アーキテクチャの噂ではなく公開情報で比較する
パラメータ数やMoEの活性化パラメータといった数字は、クローズドモデルでは非公開が原則であり、ネット上の推測値をそのまま意思決定の根拠にしないこと。価格・コンテキスト長・ベンチマーク・ライセンスという4つの公開情報で比較する方が、実務的で再現性がある。
まとめ
エンジニア視点でのLLM選定は、「どのAIが一番賢いか」ではなく「どの系統・どのティアが、コスト・レイテンシ・ライセンスの制約の中で要件を満たすか」という問いに近い。GPT系・Claude系・Gemini系はいずれも複数ティアの併用を前提にした価格設計になっており、OSS系はライセンスの自由度が系統ごとに大きく異なる。まずは自社の要件(コスト上限・コンテキスト長・データの持ち出し可否)を明確にした上で、公開されている価格表とベンチマークを直接確認する——これが遠回りに見えて一番確実な選び方だ。
一般ユーザー向けのサービス(チャットアプリ)としての比較は「ChatGPT・Claude・Gemini・Copilotどれを選ぶ?」もあわせて参考にしてほしい。LLM・生成AI全体の見取り図はLLM完全ガイドにまとめている。
出典(各社公式の価格・ライセンスページ、2026年7月時点で確認)
